ルカによる福音書
洗礼者ヨハネの誕生の予告、イエス誕生の予告、マリアの賛歌、ザカリアの預言、ベツレヘムの馬小屋でのイエスの誕生、羊飼いと天使。
◆献呈の言葉
1:1 -2わたしたちの間で実現した事柄について、最初から目撃して御言葉のために働いた人々がわたしたちに伝えたとおりに、物語を書き連ねようと、多くの人々が既に手を着けています。 1:3 そこで、敬愛するテオフィロさま、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。 1:4 お受けになった教えが確実なものであることを、よく分かっていただきたいのであります。
◆洗礼者ヨハネの誕生、予告される
1:5 ユダヤの王ヘロデの時代、アビヤ組の祭司にザカリアという人がいた。その妻はアロン家の娘の一人で、名をエリサベトといった。 1:6 二人とも神の前に正しい人で、主の掟と定めをすべて守り、非のうちどころがなかった。 1:7 しかし、エリサベトは不妊の女だったので、彼らには、子供がなく、二人とも既に年をとっていた。 1:8 さて、ザカリアは自分の組が当番で、神の御前で祭司の務めをしていたとき、 1:9 祭司職のしきたりによってくじを引いたところ、主の聖所に入って香をたくことになった。 1:10 香をたいている間、大勢の民衆が皆外で祈っていた。 1:11 すると、主の天使が現れ、香壇の右に立った。 1:12 ザカリアはそれを見て不安になり、恐怖の念に襲われた。 1:13 天使は言った。「恐れることはない。ザカリア、あなたの願いは聞き入れられた。あなたの妻エリサベトは男の子を産む。その子をヨハネと名付けなさい。 1:14 その子はあなたにとって喜びとなり、楽しみとなる。多くの人もその誕生を喜ぶ。 1:15 彼は主の御前に偉大な人になり、ぶどう酒や強い酒を飲まず、既に母の胎にいるときから聖霊に満たされていて、 1:16 イスラエルの多くの子らをその神である主のもとに立ち帰らせる。 1:17 彼はエリヤの霊と力で主に先立って行き、父の心を子に向けさせ、逆らう者に正しい人の分別を持たせて、準備のできた民を主のために用意する。」 1:18 そこで、ザカリアは天使に言った。「何によって、わたしはそれを知ることができるのでしょうか。わたしは老人ですし、妻も年をとっています。」 1:19 天使は答えた。「わたしはガブリエル、神の前に立つ者。あなたに話しかけて、この喜ばしい知らせを伝えるために遣わされたのである。 1:20 あなたは口が利けなくなり、この事の起こる日まで話すことができなくなる。時が来れば実現するわたしの言葉を信じなかったからである。」 1:21 民衆はザカリアを待っていた。そして、彼が聖所で手間取るのを、不思議に思っていた。 1:22 ザカリアはやっと出て来たけれども、話すことができなかった。そこで、人々は彼が聖所で幻を見たのだと悟った。ザカリアは身振りで示すだけで、口が利けないままだった。 1:23 やがて、務めの期間が終わって自分の家に帰った。 1:24 その後、妻エリサベトは身ごもって、五か月の間身を隠していた。そして、こう言った。 1:25 「主は今こそ、こうして、わたしに目を留め、人々の間からわたしの恥を取り去ってくださいました。」
◆イエスの誕生が予告される
1:26 六か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。 1:27 ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。 1:28 天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」 1:29 マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。 1:30 すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。 1:31 あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。 1:32 その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。 1:33 彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」 1:34 マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」 1:35 天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。 1:36 あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。 1:37 神にできないことは何一つない。」 1:38 マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。
◆マリア、エリサベトを訪ねる
1:39 そのころ、マリアは出かけて、急いで山里に向かい、ユダの町に行った。 1:40 そして、ザカリアの家に入ってエリサベトに挨拶した。 1:41 マリアの挨拶をエリサベトが聞いたとき、その胎内の子がおどった。エリサベトは聖霊に満たされて、 1:42 声高らかに言った。「あなたは女の中で祝福された方です。胎内のお子さまも祝福されています。 1:43 わたしの主のお母さまがわたしのところに来てくださるとは、どういうわけでしょう。 1:44 あなたの挨拶のお声をわたしが耳にしたとき、胎内の子は喜んでおどりました。 1:45 主がおっしゃったことは必ず実現すると信じた方は、なんと幸いでしょう。」
◆マリアの賛歌
1:46 そこで、マリアは言った。 1:47 「わたしの魂は主をあがめ、/わたしの霊は救い主である神を喜びたたえます。 1:48 身分の低い、この主のはしためにも/目を留めてくださったからです。今から後、いつの世の人も/わたしを幸いな者と言うでしょう、 1:49 力ある方が、/わたしに偉大なことをなさいましたから。その御名は尊く、 1:50 その憐れみは代々に限りなく、/主を畏れる者に及びます。 1:51 主はその腕で力を振るい、/思い上がる者を打ち散らし、 1:52 権力ある者をその座から引き降ろし、/身分の低い者を高く上げ、 1:53 飢えた人を良い物で満たし、/富める者を空腹のまま追い返されます。 1:54 その僕イスラエルを受け入れて、/憐れみをお忘れになりません、 1:55 わたしたちの先祖におっしゃったとおり、/アブラハムとその子孫に対してとこしえに。」 1:56 マリアは、三か月ほどエリサベトのところに滞在してから、自分の家に帰った。
◆洗礼者ヨハネの誕生
1:57 さて、月が満ちて、エリサベトは男の子を産んだ。 1:58 近所の人々や親類は、主がエリサベトを大いに慈しまれたと聞いて喜び合った。 1:59 八日目に、その子に割礼を施すために来た人々は、父の名を取ってザカリアと名付けようとした。 1:60 ところが、母は、「いいえ、名はヨハネとしなければなりません」と言った。 1:61 しかし人々は、「あなたの親類には、そういう名の付いた人はだれもいない」と言い、 1:62 父親に、「この子に何と名を付けたいか」と手振りで尋ねた。 1:63 父親は字を書く板を出させて、「この子の名はヨハネ」と書いたので、人々は皆驚いた。 1:64 すると、たちまちザカリアは口が開き、舌がほどけ、神を賛美し始めた。 1:65 近所の人々は皆恐れを感じた。そして、このことすべてが、ユダヤの山里中で話題になった。 1:66 聞いた人々は皆これを心に留め、「いったい、この子はどんな人になるのだろうか」と言った。この子には主の力が及んでいたのである。
◆ザカリアの預言
1:67 父ザカリアは聖霊に満たされ、こう預言した。 1:68 「ほめたたえよ、イスラエルの神である主を。主はその民を訪れて解放し、 1:69 我らのために救いの角を、/僕ダビデの家から起こされた。 1:70 昔から聖なる預言者たちの口を通して/語られたとおりに。 1:71 それは、我らの敵、/すべて我らを憎む者の手からの救い。 1:72 主は我らの先祖を憐れみ、/その聖なる契約を覚えていてくださる。 1:73 これは我らの父アブラハムに立てられた誓い。こうして我らは、 1:74 敵の手から救われ、/恐れなく主に仕える、 1:75 生涯、主の御前に清く正しく。 1:76 幼子よ、お前はいと高き方の預言者と呼ばれる。主に先立って行き、その道を整え、 1:77 主の民に罪の赦しによる救いを/知らせるからである。 1:78 これは我らの神の憐れみの心による。この憐れみによって、/高い所からあけぼのの光が我らを訪れ、 1:79 暗闇と死の陰に座している者たちを照らし、/我らの歩みを平和の道に導く。」 1:80 幼子は身も心も健やかに育ち、イスラエルの人々の前に現れるまで荒れ野にいた。
◆イエスの誕生
2:1 そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。 2:2 これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である。 2:3 人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った。 2:4 ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。 2:5 身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。 2:6 ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、 2:7 初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。
◆羊飼いと天使
2:8 その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。 2:9 すると、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。 2:10 天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。 2:11 今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。 2:12 あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」 2:13 すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。 2:14 「いと高きところには栄光、神にあれ、/地には平和、御心に適う人にあれ。」 2:15 天使たちが離れて天に去ったとき、羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか」と話し合った。 2:16 そして急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉桶に寝かせてある乳飲み子を探し当てた。 2:17 その光景を見て、羊飼いたちは、この幼子について天使が話してくれたことを人々に知らせた。 2:18 聞いた者は皆、羊飼いたちの話を不思議に思った。 2:19 しかし、マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた。 2:20 羊飼いたちは、見聞きしたことがすべて天使の話したとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。 2:21 八日たって割礼の日を迎えたとき、幼子はイエスと名付けられた。これは、胎内に宿る前に天使から示された名である。